香水がお好きなら、“シプレノート”と “フゼアノート”というトバを耳にしたことがあると思います。

一般的に、“シプレノート”は女性用の香水によく使われ、反対に“フゼアノート”は男性用香水に多い香りです。

先にご紹介した、フローラル、シトラス、グリーン、フルーティ、ウッディノートに関しては、名前とモノが一致しやすく、香りのイメージもだいたい想像がつくと思います。

しかし、“シプレ”“フゼア”と言われても、その香りを嗅いだことのない人にはどんな香りなのか見当もつきませんよね。ではひとつずつ詳しく調べてみましょう。

まず、女性的な香りと言われる“シプレ”。シプレはフランス語で「糸杉」のことです。サイプレス(Cypress)と英語読みすれば、アロマオイルなどに詳しい人はピンとくると思います。

サイプレスを単純に「ヒノキ」と訳してしまうこともあるのですが、厳密にはヒノキ科の常緑高木、セイヨウヒノキのことで、確かにヒノキ科なので、ヒノキ風呂の匂いと似た部分もあるのですが、あのほのぼの感と比べると、もう少しシャキッとしたイメージかもしれません。

東地中海のキプロス島という島をご存じですか?昔、この島には糸杉の樹木が密生していたようです。キプロスは古代ギリシア語ではキュパリッソスと発音します。

このサイプレスの命名は、ギリシア神話に登場する美少年キュパリッソスに由来すると言われています。

とても可愛がっていた鹿を誤って槍で突いて殺してしまったキュパリッソス。永遠に喪に服したいと神々に願い出て、神々が彼の姿を糸杉の姿に変えたという話。

なるほど、スンナリしなやかに立った糸杉の樹は、美しい少年の姿に見えなくもないかもしれません。

元々は、このようなロマンチックなギリシア神話のイメージを冠して「シプレ」という名前の香水が販売されていたのですが、今はこの“シプレノート”というコトバだけが残っています。

“シプレノート”は、具体的にはどのような香料でつくられているのでしょう?
基本的にはオークモス(落葉樹であるナラの苔の部分)にシトラスノートを加えたもの。レザーの匂いのような温かみと、シャッキリした柑橘が組み合わされ、都会的かつ森林浴のようなリラックス効果ももたらしてくれる香水です。

男性的な香りである“フゼアノート”。こちらも実は“シプレノート”同様、オークモスを基調とした香りなんです。

フゼアとはシダのこと。羊葉植物と言われたらイメージできるでしょうか。細かい歯のような葉が連なった植物です。シダの香り?想像つくでしょうか。植物特有の青臭い匂いしか思い浮かびませんよね。

フゼアの語源の元となったシダは、19世紀フランス宮廷で流行した観賞用のシダ。「フゼア・ロワイヤル」という香水が19世紀に販売されいたそうです。

“フゼアノート”の香りは、ハーブ特有の渋みと青臭さ、オークモスの持つ湿った土のような包容力のある匂いを合わせた、重厚感を持ちながら、若草のすがすがしさを感じさせる、魅力ある香りとなっています。

“フゼアノート”のアクセントとして使われている合成香料が「クマリン」。桜餅やバニラをほのかに感じさせる匂いがあります。

そのほか、ゼラニウムやラベンダーなど、甘みが少なく清潔感のある花の匂いがアクセントに使われることも多いのだとか。

香料の元がわかりやすいフローラル、シトラス、グリーン、フルーティなどの次には、意外性と複雑な構造を持つ大人の香水、“シプレノート”と “フゼアノート”にも是非トライしてみて欲しいと思います。