“ノート”というコトバを聞いて、すぐさま思い浮かべるのは束ねた紙を本のように綴ったもの、のことでしょうか。

音楽の世界やフレグランスの世界でも、 “ノート”というコトバは頻繁につかわれています。

紙を綴ったノートは「覚え書きをすること」や「情報を書き留めたもの」という意味があるように、音楽の“ノート”とは音色、曲調などを指します。音楽における“情報”ですね。

さらにその音楽用語の“ノート”というコトバが、香りの調子、ムード(雰囲気)を示すコトバとしてフレグランスの世界に流用されているんです。

香水はほとんどがアルコール成分でできていますが、肌につけた瞬間からアルコールが蒸発していき、香水本来がもつ匂いの正体があきらかになってきます。それが“ノート”です。

ですから、香水を選ぶとき、香水瓶に鼻をつけて嗅いでみるだけでは、その香水のもつ本当の香りを知ることにはなりません。

少量を肌にのせるか、フレグランスショップにおいてある本にはさむしおりのような形をしたムエット(試香紙や、スメリングスリップとも呼ばれる)に吹きつけ、アルコールが飛んでいく過程で変化していく香りを楽しみます。

“ノート”は時間の経過とともに、

トップノート
ミドルノート
ラストノート(ベースノート)

と呼ばれ、三段階で香りが変化していきます。

トップノートは、つけたてすぐ、アルコールが一気に飛んでいくときの香り。華やかな匂い立ちであることが多く、「香水の好き嫌い」をここで決めてしまう人が多いようです。

5〜10分ほど立つと、華やかな香りが一端おさまって、落ち着いた香りが訪れます。これがミドルノートです。トップノートとラストノートに挟まっている部分で実はこの部分こそが、その香水の持つ本質的な部分となります。

このミドルノートの期間ですが、商品の特性によってまちまちではありますが、ほぼ数時間から半日程度のものです。

ラストノート(ベースノート)はいわゆる「残り香」です。ラストノートまで残るのは持続力の高い香料です。

持続性のある素材は、ムスク、アンバーなどの動物性香料、サンダルウッド(白檀)など力強い香りを持つ樹木などに限られるため、トップノートやミドルノートはあきらかに違う香りでも、このラストノート部分は似通っているケースも多いです。

華やかなトップノート、香水の本質であるミドルノートに比べ、ラストノートはとても地味なイメージですが、人の脳に記憶され、忘れがたい印象を残すのは、この残り香、ラストノートの部分であったりします。

好ましい人、自分にとってよい印象を残したひとの香りは、「よい香り」として記憶に残ります。

「つけている香水の銘柄はなんですか?」と気さくにきけるような間柄ならなんの問題もありませんが、そんなふうに尋ねられない場合がほとんどではないでしょうか。

その香水を知りたい、もう一度匂いを嗅いでみたい、と思ったときは、いくつか香水にあたりをつけたら、ムエットをつかってその匂いをしばらく持ち歩いてみることをオススメします。

フレグランスショップでは、香水を嗅いだあとすぐに購入すべきかどうか決める必要はありません。家に帰ってラストノートまでの匂いの変化を確認し、数日後に再び店を訪れて購入する、というのが賢い香水の選び方です。