Page 4 of 5

香りの世界のニューフェース、お菓子をイメージしたグルマンノート

先に紹介した、フローラル、シトラス、グリーン、フルーティ、ウッディ、そして、シプレ、フゼアノートは、高級品ではあるけれど、一般の人が店先で香水を手に入れられるようになって以来の定番の香りと言えます。

それら定番の香りに加え、毎年流行の香り(ヒット香水やそれに似通った匂いの香水)が生まれたり、新しいノートが加わったりします。

そんな中のひとつが“グルマンノート”。1990年代のはじめ頃ヒットした、香水界のニューフェースです。どんな匂いか想像できますか?

フランス語のグルマンとは英語で言うところの「グルメ」。すなわち食いしん坊さんのことなんです。グルメ、と言ったら、霜降り肉やキャビア、トリュッフなどをいちばんに思い浮かべるかもしれませんが、香水界のグルマンは、スイーツの香りがメインです。

1990年代以前にも、香りのアクセントにお菓子にも多用されるバニラをつかった香水は販売され、人気を博していました。バニラはラン科の植物。お菓子に使われるのは芳香を持つ種子の部分です。

1990年代以前までは、ラン科の植物バニラをつかった香りは、グルマン系というより、フローラルやシプレなど、もともとのノートの名前が主流になっていた気がします。

1990年代以降は、バニラ以外にも、スイーツを想起させる香りを積極的に打ち出した香水が多く見られるようになり、香りの世界に“グルマンノート”というあたらしい潮流を生み出したのです。

グルマン系の走り、初期グルマン系の大ヒット香水は、トップノートでは、スターアニスをアクセントとしてつかっています。

スターアニス?いったいどんな香り?とピンと来ない方のために説明しますと、クリスマスに食べるシュトーレン、パネトーネ、またホットワインなどによく使われているハーブで、日本名八角フェンネルと言います。若干苦みを含んだ枯れ草のような匂いですが、たしかに甘みをイメージします。

ミドルノートで香るのがリコリス。スペインカンゾウとも呼ばれ、こちらも甘いけれど独特の苦みを持つ香りです。そこにチェリーの香りや、桃とバラを混ぜたように甘く香り立つアマリリスの華やかさが加わります。

そしていよいよ、ラストノートに香るのがスイーツの王道ともいうべきバニラ。

トップノートのスターアニスや、ミドルノートのリコリスが持っていた苦さが消え、極上バニラの甘さにサクラや杏仁が加わり、ナッツ風味のチョコプラリネの香りが残るという、まさにスイーツビュッフェを思わせるこの香水が、女子の間でヒットしない理由はありませんよね!

その後はさまざまなスイーツをイメージしたヒット香水が、各ブランドからたくさん生まれました!

男性用香水なのですが、トップのペパーミントとラベンダーというすっきりした香りが、ミドルのキャラメル風味の香りと溶け合い、ラストノートではフレーバーコーヒーの匂いがするという、まさに完璧な“グルマンノート”。

男性用ですが、女性でも愛用する人が多いのだとか。

“グルマンノート”はおもにスイーツの香りのことを差す、というようなことを書きましたが、実は意外な食物の匂いをイメージしたような香水は、昔からバラエティショップなどで売られていたりするんですよ。

70年代に発売されていると聞いて驚いたのが、カレー風味の香水と、ポテトサラダの香水。バラエティショップのユニーク香水として売られているものなので、香水として洗練されているとは言いがたいのですが、そのうち、そうしたオカズ系(?)のフレグランスノートも一般に浸透する日がくるかもしれませんね…!

女性的な“シプレノート”、男性的な“フゼアノート”その正体は?

香水がお好きなら、“シプレノート”と “フゼアノート”というトバを耳にしたことがあると思います。

一般的に、“シプレノート”は女性用の香水によく使われ、反対に“フゼアノート”は男性用香水に多い香りです。

先にご紹介した、フローラル、シトラス、グリーン、フルーティ、ウッディノートに関しては、名前とモノが一致しやすく、香りのイメージもだいたい想像がつくと思います。

しかし、“シプレ”“フゼア”と言われても、その香りを嗅いだことのない人にはどんな香りなのか見当もつきませんよね。ではひとつずつ詳しく調べてみましょう。

まず、女性的な香りと言われる“シプレ”。シプレはフランス語で「糸杉」のことです。サイプレス(Cypress)と英語読みすれば、アロマオイルなどに詳しい人はピンとくると思います。

サイプレスを単純に「ヒノキ」と訳してしまうこともあるのですが、厳密にはヒノキ科の常緑高木、セイヨウヒノキのことで、確かにヒノキ科なので、ヒノキ風呂の匂いと似た部分もあるのですが、あのほのぼの感と比べると、もう少しシャキッとしたイメージかもしれません。

東地中海のキプロス島という島をご存じですか?昔、この島には糸杉の樹木が密生していたようです。キプロスは古代ギリシア語ではキュパリッソスと発音します。

このサイプレスの命名は、ギリシア神話に登場する美少年キュパリッソスに由来すると言われています。

とても可愛がっていた鹿を誤って槍で突いて殺してしまったキュパリッソス。永遠に喪に服したいと神々に願い出て、神々が彼の姿を糸杉の姿に変えたという話。

なるほど、スンナリしなやかに立った糸杉の樹は、美しい少年の姿に見えなくもないかもしれません。

元々は、このようなロマンチックなギリシア神話のイメージを冠して「シプレ」という名前の香水が販売されていたのですが、今はこの“シプレノート”というコトバだけが残っています。

“シプレノート”は、具体的にはどのような香料でつくられているのでしょう?
基本的にはオークモス(落葉樹であるナラの苔の部分)にシトラスノートを加えたもの。レザーの匂いのような温かみと、シャッキリした柑橘が組み合わされ、都会的かつ森林浴のようなリラックス効果ももたらしてくれる香水です。

男性的な香りである“フゼアノート”。こちらも実は“シプレノート”同様、オークモスを基調とした香りなんです。

フゼアとはシダのこと。羊葉植物と言われたらイメージできるでしょうか。細かい歯のような葉が連なった植物です。シダの香り?想像つくでしょうか。植物特有の青臭い匂いしか思い浮かびませんよね。

フゼアの語源の元となったシダは、19世紀フランス宮廷で流行した観賞用のシダ。「フゼア・ロワイヤル」という香水が19世紀に販売されいたそうです。

“フゼアノート”の香りは、ハーブ特有の渋みと青臭さ、オークモスの持つ湿った土のような包容力のある匂いを合わせた、重厚感を持ちながら、若草のすがすがしさを感じさせる、魅力ある香りとなっています。

“フゼアノート”のアクセントとして使われている合成香料が「クマリン」。桜餅やバニラをほのかに感じさせる匂いがあります。

そのほか、ゼラニウムやラベンダーなど、甘みが少なく清潔感のある花の匂いがアクセントに使われることも多いのだとか。

香料の元がわかりやすいフローラル、シトラス、グリーン、フルーティなどの次には、意外性と複雑な構造を持つ大人の香水、“シプレノート”と “フゼアノート”にも是非トライしてみて欲しいと思います。

季節をつよく感じさせアクセントにもなるフルーティ、ウッディノート

前項では古今東西でとくに人気の高い香り、フローラルノート、シトラスノート、グリーンノートについて調べてみました。

次にご紹介するのは、三大人気香水の次点ともいうべき、フルーティノートとウッディノートです。

シトラスノートはおおまかにはフルーティノートの中に含まれますし、グリーンノートは草や葉のイメージですが、自然の香りとしてはウッディノートのベースとなる樹木の香りにも類似性・共通性があるような気がします。

しかし、果実にしても、樹木にしてもその匂いをシングルノートとして単体で楽しむというよりは、フローラルノート、シトラスノート、グリーンノートなどのアクセントとして使われていた方がより個性が際立つ香料なのではないか、と思います。

シトラスノートのところでご紹介したグレープフルーツ単体の、シングルノートともいうべき香水はかなり例外に近いものではないでしょうか。

トイレの芳香剤や、ティーン向けの安価な香水などでは、たとえば「イチゴのかおり」「ピーチのかおり」といった果実単体の香りを表現したものがよく売られています。

たいていの場合、合成香料を感じさせるような香りとなっています。稀に実際の果実に近い香りのものも見られますが、安価なだけに香りの深みはないような気がします。あれらをシングルノートと言い切ってしまうには少々無理を感じます。

実際にフルーティノートの果実の香りとして使用される香料にはどのような種類があるのか調べてみましょう。

「フルーティ」と銘打った香水は、ピーチやパイン、マンゴーなどトロピカルフルーツ系の匂いをつよく感じさせることが多いようです。トロピカルフルーツのおもな産出地・南国からの連想でしょうか?真夏や太陽の名前を冠したフルーティノートの香水のほとんどが夏に発売されていました。

昨今では、トロピカルフルーツ以外にもベリー系の香りが注目されています。われわれ日本人が春に食す“いちご”より、濃厚な甘さとつよい酸味の感じさせるブラックベリー、クランベリーなどの香りの人気が高いようです。

こちらのベリー系フルーティノートの香水もおもに夏向きとして販売されています。

対してウッディノートの香水は秋から冬にかけて新作が登場する傾向にあります。

落ち葉や枯れ草の匂い、暖炉にくべた木の実が爆ぜる様子など、真夏によく売られる溌剌とジューシーなフルーティノートは真逆の落ち着いた深みのある香りが特徴のウッディノート。使われる香料にはどのようなものがあるのでしょうか。

ラストノートまで残る持続性の高い香りとして白檀(サンダルウッド)をご紹介しましたが、これこそまさに樹木そのものの香りです。

その他には、イネ科の多年草であるベチバー。根につよい芳香があります。ベチバーの匂いのイメージは「上品」、「高貴」。実際、高級ブランドの香水に頻繁に使われています。

パインの果実は夏向きのフルーティノートとして重用されますが、パインの葉や根には、日本人に好まれるヒノキのように、新鮮な森林を思わせる芳香があります。

ウッディ系の香料は、バニラやムスクなどと合わせることで、女性らしい濃厚で品のある甘さをつくりだすことができるのだとか。

夏のバカンスではフルーティノート、年末年始のあらたまった席などではウッディノートなど、季節によって香水を上手に使い分けて奥深い香りの世界を楽しみたいですね!

古今東西人気香水の御三家!フローラル、シトラス、グリーンノート

香水と聞いてまず最初に誰もが思い浮かべるのは「バラの香り」ではないでしょうか。

フレグランスの世界でもっとも有名な香料が、グラースのバラ。バラの産地、南仏・グラースは別名「香水の街」。バラのシーズンである5月、その街を訪れると得も言われぬふくいくとしたバラの香りが町中から漂ってくると言います。

バラの香水の匂いをイメージすることはできても、実際にフラワーショップでバラを買って香水のようなよい香りはしなかった、生臭かった、などという印象を抱く人も多いかも知れませんね。

香料となるバラと観賞用のバラでは種類が違うのです。観賞用のバラで香りのよいものもありますが、匂いが弱く、香料としてはほとんどつかわれていないようです。

さて、古今東西・香水の人気御三家と言えば、バラの香りを筆頭にした、甘く華やかなフローラルノート、溌剌とした元気な香りでスポーティタイプの香水としてよく使用されるシトラスノート、落ち着いた印象を残すグリーンノートの三種類ということになるでしょうか。

フローラルノートは、大きな潮流に分けてローズ(バラ)系とジャスミン系があります。

ローズ系は女性らしく華やかな香り、愛や恋などをイメージさせるネーミングであることも多いです。

ジャスミン系はバラよりは少しキリッとした感じ。スーツを着てバリバリ働いているけれど、花特有の癒やしの部分や温かみ、優しさも持っているというような。甘すぎる香水が苦手な人にオススメです。

ローズ、ジャスミンなど、その花の持つ香りをつよく打ち出したフレグランスをシングルフローラル系と言います。

他にもスズランやマグノリア、サクラ、スイートピー、スイセンなど、香りを持つ花はたくさんあります。それらの花の香りを組み合わせたものはフローラルブーケ系、また花と果実を組み合わせたフルーティフローラル系と呼ばれる香りもあります。

シトラスノートの香料のもととなる代表格は、レモン、オレンジ、ベルガモットといったところでしょうか。柑橘の果皮から抽出した香料です。エネルギーに満ちあふれ、元気をチャージできそうな香り。爽やかでスポーツシーンにもうってつけです。

グレープフルーツ香料のシングルノートの香水はユニセックスフレグランスとして90年代に大ヒットしたのでご記憶にある方も多いかと思います。

ここ数年はシトラスノートのニューフェースとしてバーベナの人気も見逃せません。バラをつかったコスメが人気のフランスの化粧品会社が火付け役と言われています。

バーベナの細長い葉はレモンのような香りがするのですが、バーベナ自体は果実ではなく、鮮やかな花弁を持つ多年草で、別名「美女桜」。

プッチーニのオペラ「マダムバタフライ」のアリアの歌詞にも出てくるので、オペラ好きな方ならご存じかも知れませんね。幼くして英国海軍士官の妻となった蝶々さん。バラより、バーベナの香りの方がイメージに合っていると言えるかもしれません。

三大人気香水、最後のグリーンノートは、フローラル、シトラスに比べて地味な印象があるかもしれませんね。

香料としては、バジルや、セリ科のガルバナム、意外と感じるかもしれませんが、ヒヤシンスの香りもグリーンノートの香料のひとつです。

ヒヤシンスは花を匂ってみてわかるように、華やかなフローラルノートというより、やや青臭さを感じるのでグリーンノートと言えます。

グリーンノートは葉や草のイメージから「深呼吸したくなるような、癒やし系」のイメージを持ちがちですが、「都会的な香り」と分類される香水の多くがグリーンノートであることを考えると面白い逆転現象ですよね!