前項で現在フレグランスノートは18種類あるとお伝えしましたが、フローラル、シトラス、グリーン、フルーティ、ウッディ、シプレ、フゼア、グルマン、スパイシー、レザー、アルデヒド、パウダリー、オリエンタル、ニューフレッシュ、マリン、アロマティック、で16種類。

あと2つ、まだご紹介していないフレグランスノートがあります。それが、“ムスクノート”と“アンバーノート”です。

前項の“オリエンタルノート”の箇所で、「官能性を表現する動物性の香料」として紹介したものが、このムスクとアンバー。

“ムスクノート”と“アンバーノート”は実は“オリエンタルノート”の派生形として生まれたフレグランスノートなんです。

ムスクは別名ジャコウと呼ばれています。南アジアに生息するジャコウジカ。そのオスの腹部にある香嚢(皮脂のようなもの。ジャコウ腺とも呼ばれる)から分泌されるものがこのムスク。

「動物の体から分泌される匂い?いったいどんなものなんだ?」と不思議に思われる方がいるかもしれませんね。

異性を魅了し、引き寄せることを「フェロモンを発している」などと言いますが、ジャコウジカのフェロモンこそが、このムスクなんです。

ムスクの匂いはご存じですか。70年代末〜80年代初期、リーゼントや長ラン(学ランを長く加工したもの)などの不良文化が華やかだったころ、悪ぶったティーンエイジャーから絶大な支持を集めたのが、このムスクの香りです。

ティーンエイジャーが気楽に手に取れるくらいの安価なフレグランスですから、動物性の香料とは雲泥の差だったと思いますが、かすかに石けんの匂いを感じさせるムスクは、大人の男性的イメージのレザーノートやスパイシーノートと比べ、むしろピュアなイメージ。

悪ぶっていても悪になりきれないアンバランスな不良少年に憧れる少女たちをキュンとさせたことはまず、間違いありません。

今現在、“ムスクノート”として流通している香水は、ムスクの他に、爽やかで清潔なイメージを持つシトラス系香料や、ウッディ系香料、甘みの少ないジャスミン、ミュゲなどフローラル系の香料を合わせ、より香りを複雑化したもの。

世紀の美男と歌われたフランス出身の男性俳優の名を冠した香水は、ムスクの匂いをくっきりと出し、ティーンエイジャーから50代くらいの男性まで、幅広い支持を得ている人気香水のひとつです。

もうひとつ、動物性香料として使われているのがアンバー。正式名称はアンバーグリス、別名・龍涎香(りゅうぜんこう)。

匂いの正体は、なんと!マッコウクジラの腸内結石!嗅いでみたら得も言われぬよい香り…、だったんでしょうね。

現在、クジラは捕鯨が禁止されていますから、天然の香料は入手できません。似通った匂いの合成香料が使用されます。石けんのような、お香のような、と表現する人もいますが、それ以上に重厚な甘さのある香料だと思います。

もう数十年前のことになりますが、知人宅の掃除機をつかわせてもらったところ、とても匂いがするので、なにか香料のようなものを入れているのか?と尋ねたとき、「自然食品の店で買ったのだけど、どうやらクジラの胃袋らしい」というような答えだったことを覚えています。

「ああ、アンバーね」と当時は分かったつもりになっていたのですが、一般のご家庭にあるものとしては高級過ぎる?しかし、石けんのような、それでいてやや生臭い獣性も感じさせる、なんとも不思議な香りだったことは今も記憶にしっかり残っています。